Yokohama Choral Society
-横浜合唱協会-

横浜合唱協会第63回定期演奏会 曲目と解説

第63回定期演奏会 曲目

モテット 〜神への讃美〜
J.P.Sweelinck
J.P.スウェーリンク
(1562-1621)
  • "Cantate Domino"
     主に向かいて歌え
  • "Diligam te, Domine"
     主よ、われは御身を愛し奉る
  • Hodie Christus natus est
     今日、キリストがお生まれになった
D.Buxtehude
D.ブクステフーデ
(1637-1707)
  • Herr Christ, der einig Gottes Sohn
     主キリストよ、神のひとり子よ(オルガン曲)
  • Praeludium in G
     プレリュード ト長調(オルガン曲)
J.S.Bach
J.S.バッハ
(1685-1750)
  • Motette "Singet dem Herrn ein neues Lied" BWV225
     主に向かいて新しい歌を歌え
  • Motette "Komm, Jesu, komm" BWV229
     来たれ、イエスよ、来たれ
F.Mendelssohn Bartholdy
F.メンデルスゾーン
(1809-1847)
  • "Herr, nun lässest du deinen Diener in Frieden fahren" Op.69, Nr.1
     主よ、今こそあなたはこの僕を安らかにいかせ給う
  • "Jauchzet dem Herrn, alle Welt" Op.69, Nr.2
     全地よ、主に向かいて喜びの声をあげよ
J.Brahms
J.ブラームス
(1833-1897)
  • "Warum ist das Licht gegeben dem Mühseligen" Op.74, Nr.1
     なぜ悩み苦しむ人々に光は与えられたか
  • "O Heiland reiß die Himmel auf" Op.74, Nr.2
     おお、救い主よ、天を開いてください
指揮:八尋和美
オルガン:山口綾規
チェロ:伊藤恵以子
コントラバス:河原田潤
合唱:横浜合唱協会
日時:2013年11月04日(月・祝) 14:00開演(13:15開場)
場所:めぐろパーシモンホール 大ホール
  (東急東横線 「都立大学」下車 徒歩7分)
演奏会チラシ: pdfファイル(ca. 500kB)

 

第63回定期演奏会 曲目解説

本日の曲目はドイツモテットの比較的良く知られた曲で、横浜合唱協会でも取り上げたことのあるレパートリーから選んで「神への讃美」としてまとめました。なお、スウェーリンクは作曲家としても作品としても初めて取り組みました。

◆J.P.スウェーリンク(1562〜1621)

スウェーリンクはオランダの作曲家で、ルネサンスからバロックへの転換期に、アムステルダムの教会オルガニストとして活躍しました。

バロック鍵盤音楽を基礎付け、門下からはP.ハッセ、シャイト、シャイン、シャイデマン、J.プレトリウスといった優秀な弟子が巣立ち、その中からはバッハへと連なる「北ドイツオルガン楽派」の人々も輩出しました。

モテットにおいても、ルネサンス声楽の頂点を成したフランドル楽派とイタリアバロックのヴェネツィア楽派の技法を融合させています。伝統的な教会旋法と近代的な調性の間を行き来するその音楽の魅力は、今回取り上げたモテットでも味わうことができます。

Cantate Domino, canticum novum
 主に向かいて新しい歌を歌え
 ヒポイオニア旋法で “Cantate(歌え)” の円弧を描くような音型が模倣され、少しづつ変形しながら何度も繰り返されます。結びでは ”mirabilia eius(主の奇跡)" が頻出し強調され印象的に締めくくられます。
Diligam te, Domine
 主よ、われは御身を愛し奉る
 ドリア旋法の ”Diligam te, Domine” によるフーガで始まり、 ”Dominus firmamentum(主は私の支え)" がポリフォニーで歌われ、結びでは ”liberator(救済者)" がメリスマで強調されています。
Hodie Christus natus est
 今日、キリストがお生まれになった
 イオニア旋法で ”Hodie, hodie(今日、この日)” がホモフォニーで4回にわたって曲の区切りの冒頭で歌われ、モチーフのように響き、付点を伴うヴェネツィア風の祝祭的なポリフォニーで歌い継がれます。

 

◆D.ブクステフーデ(1637〜1707)

Canzona in G
 カンツォーナ ト長調 (BuxWV170)
 17世紀の北ドイツを代表するオルガニスト、ブクステフーデは、数々のオルガン曲を残しました。彼が40年の永きに渡ってオルガニストを務めたリューベックの聖マリア教会には、実に規模の大きいオルガンがあったため、その低音を活かした作品が多く残っているのですが、手鍵盤のみで演奏される曲はごくわずかしかありません。本日演奏する「カンツォーナ」は、このごくわずかな手鍵盤のみで演奏される曲の一つで、タイトルからも判るように、イタリアに由来する器楽曲の形式をとり、4/4、6/8、3/2と途中で拍子が大きく変わるたびにフーガの主題も変化します。

 

◆J.S.バッハ(1685〜1750)

Komm, Jesu, komm
 来たれ、イエスよ、来たれ(BWV229)
 ライプツィヒ時代の葬儀の曲ですが使用機会は不明です。歌詞はヨハネ14章6「私は道であり、真理であり、命である。私を通らなければ、だれも父のもとに行くことができない。」に由来した6行詩の葬儀用讃美歌集から第1,2節を採っています。第1節は第一楽章の“二重合唱”に、第2節は第二楽章“アリア”と記された4声合唱に当てられました。曲はBWV225の二重合唱モテットとは趣が異なり、対位法よりも和声法に重点が置かれ、歌詞を前面に出し、減7度音程や不協和音で、葬送に対応しています。
第一楽章 3つの部分に分けられます。
第一部
 冒頭二つの合唱が(1) "Komm(来たれ)" を各3回づつ、ト短調(g-moll)で和音を変化させる掛け合いで開始します。「ヨハネ受難曲」「葬送カンタータBWV21」等バッハがト短調声楽曲で見せるイエスへの強い呼びかけのアフェクト(心情)が込められています。次に(2) "die Kraft verschwindt(力は消え)" の下降音型、(3) "Ich sehne(私は憧れ)" とホモフォニーが続き、(4) "der saure Weg(苦難の道)" で減7度下降音程を含む厳しいカノンが現れ、二つの合唱が交互に苦難の二重カノンを奏でます。
第二部
 休符を挟んで音楽のアフェクト(心情)は急転換。(5) "Komm, komm, ich will(来て、来て)" から軽やかなマドリガル的な音の動きとなり、両合唱が交互フーガで自由な呼びかける中で、苦難は忘れ去られ、嘆きはイエスへの深い信頼のなかで解消されていきます。
第三部
 (6) "Du bist der rechte Weg(あなたは正しい道)" の美しい旋律に乗せて、両合唱が交互に最初はホモフォニーでついで長いメリスマを持つポリフォニーで掛け合いを演じ、旋律は変奏でさらに輝きを増しながら、最後には両合唱が一体の8声合唱になり楽章を締めくくります。
第二楽章
 第1節の大規模な聖句モテットに対して、同じ長さの6行詩の第2節は比較的単純な4声“アリア”です。しかし通常の「終結コラール」とは異なり、「定旋律」はなく、転調が多く、跳躍音や装飾音、不協和音等、高度の技法が使用され独自の様式を生み出しています。

 

◆F.メンデルスゾーン(1809〜1847)

Herr, nun lässest du deinen Diener in Frieden fahren
 主よ、今こそあなたはこの僕を安らかにいかせ給う(Op.69-1)
 メンデルスゾーンが亡くなる1847年に、イギリス国教会典礼のOp.69-1は晩禱用、Op.69-2は早禱用に作曲されました。従って英語歌詞に曲付けされ、死後の1848年にドイツで出版する際にドイツ語訳が付けられましたが訳者は不明です。
 Op.69-1の歌詞は、「主が遣わすメシアに会うまでは、決して死なない」との御告げを受けていたシメオン老人が、ようやく主に出会い「主よ、今こそあなたはこの僕を安らかにいかせてください」と発するものですが、38歳の若さで夭折したメンデルスゾーンに重ねるのは何とも辛いことです。ヨーロッパの諸都市から引っ張りだこで超過労状態にあった彼には、当時の旅は危険を伴う厳しいものであり、現代の神ならばドクターストップを告げていたのではないでしょうか。
 曲は「安らかにいかせてください」のフーガで始まり、Soloと指示された「私はこの目であなたの救いを見たからです」を経て、「異邦人を照らす光」「イスラエルの誉れ」が付点リズムを伴って強く歌われ、冒頭の「安らかにいかせてください」が繰り返されて締めくくられます。最後に典礼で定まっている「父と子と聖霊に栄光あれ」の小栄唱が添えられています。
Jauchzet dem Herrn alle Welt
 全地よ、主に向かって喜びの声をあげよ(Op.69-2)
 Op.69-2は詩篇100が歌詞で、「全地よ、主に向かって喜びの声をあげよ」と、「彼は神、我らの主」がトゥッティで力強く歌われ、「おお、感謝しつつ主の門に進み」で短調のメロディがテノールから開始して、ソプラノ、バス、アルトと続きます。最後は「なぜなら、主は思いやりがあるから」と締めくくられます。やはりここでも小栄唱が添えられています。
 祖父が高名なユダヤ人哲学者で、父の代にプロテスタントに改宗し、自身は幼いときにプロテスタントの洗礼を受けたメンデルスゾーンですが、カトリック、イギリス国教会、プロテスタントと宗派を問わず、このような典礼の珠玉の曲を生み出しました。しかし残念ながら、この年の11月4日脳溢血で亡くなりました。臨終に立ち会ったピアニストで作曲家のモシュレスは「天使のように安らかな彼の顔つきには、彼の不滅の魂が押されていた。」と語っています。

 

◆J.ブラームス(1833〜1897)

Warum ist das Licht gegeben dem Mühseligen
 なぜ悩み苦しむ人々に光は与えられたか(Op.74-1)
 Op.74-1はドイツレクイエム完成から約10年後の1877年、交響曲創作に注力していた頃の作品です。 歌詞は「ヨブ記」を主に、それに関連した聖書句で、曲は四楽章で構成されています。
第一楽章
 歌詞はヨブ記第3章の20―23節で各節ごとに区切って曲付けされた4区分から成ります。
 ヨブの発する “Warum?(なぜ)” の自問、怒りがニ短調(d-moll)の変化する和音で各節に登場します。短調宗教曲が通常第三音を本来よりも半音上げ(ピカルディ三度)明るく響かせて終止しますが、ブラームスはこれを逆進行させ、ピカルディ三度で開始して暗い響きへと移行させます。これをモチーフとして「ヨブの苦悶、怒り」が4回形を変えながら歌われます。
第二楽章
 一転素朴な舞曲風カノンで、「天の神に向かって(エレミアの哀歌)」神の救いを求めます。
第三楽章
 ゆったり、穏やかに「ヨブの忍耐」を称えます。(ヤコブの手紙)
第四楽章
 バッハがよく使用したルターのコラール「安らぎと喜びをもって、私は逝く」にドリア旋法で和声付けしています。
 全楽章の約6割を占める長大な第一楽章が神学的な問いかけとなり、第二楽章以下はその応答となって います。
 
O Heiland reiß die Himmel auf
 おお、救い主よ、天を開いてください(Op.74-2)
 Op.74-2は1863〜4年頃にウイーンで書かれた「コラール変奏曲」ですが、上記の曲と合わせてOp.74として1877年に出版され、ブラームスと交流が深かったバッハ研究大家シュピッタに献呈されています。
 変奏曲の傑作を残すことは大作曲家の証でもあり、バッハ「ゴールドベルク変奏曲」、ベートーヴェン「ディアベリ変奏曲」等がすぐに浮かびますが、ブラームスも「ヘンデル、パガニーニ、ハイドン、シューマンの主題による変奏曲」の傑作を残しています。
 この曲ではアウグスブルク1666年のコラール旋律を主題とし、歌詞は「ケルン聖歌集(1623)」からの5節で構成しています。コラール旋律は1,2節ではソプラノ、3節ではテノール、4節ではバスへと移しながら変奏を深めていきます。5節ではソプラノに戻りますがコラール旋律自体をかなり変形したものにします。最後はメリスマを伴ったアーメンのカノンで締めくくられます。

 

◆J.S.バッハ(1685〜1750)

Duetto III
 デュエット 第3番 ト長調 (BWV804)
 1739年に発表された『クラヴィーア練習曲 第3部』は、数々のコラール編曲や自由形式の作品など全27曲から成り、うち「デュエット」が4曲含まれています。ここでいう「デュエット」とは、2声の鍵盤楽曲のことを指し、小品ながらも、それぞれふんだんに技巧が凝らされているので、2声のみのシンプルな音楽の可能性を存分に感じさせてくれます。本日演奏する第3番は、舞曲風のリズムにのって、音楽が心地よく流れていきます。

 

◆J.S.バッハ(1685〜1750)

Singet dem Herrn ein neues Lied
 主に向かいて新しい歌を歌え (BWV225)
 この曲に関してライプツィッヒ聖トーマス教会には、バッハとモーツァルトの歴史的出会いを生き生きと伝えるエピソードが残されています。1789年旅の途中で訪れたモーツァルトは、聖トーマス合唱団がこの曲を歌い出だすと、「これは何ですか?」と叫び全身全霊が耳になった。合唱が終わると大喜びで「これこそ学ぶべきところがある、素晴らしい!早く楽譜を見せてください」と叫んだ。筆写パート譜を受け取ると、パート譜を自分の周りや両手両膝、椅子の上と広げて嬉しそうに見回し時を忘れた。モーツァルトはこの衝撃を機にバッハ作品を本格的に研究し、対位法の神髄を完璧に吸収し、晩年のレクイエムに結実させました。
 このように「極め付きの対位法」で書かれたこの曲は、四楽章の壮大な構成を有し「合唱交響曲」とも言うことができ、古典派を先取りした構成と技法が駆使された「伝統的かつ新規性」完備の名曲です。
第一楽章
 全体はほぼ均等に2分割され「プレリュードとフーガ」の性格を持っています。
 前半プレリュードは3つの段落で、(1) "Singet(歌え)" の呼び交わし、(2) "loben(讃美する)" の4声自由ポリフォニー、(3) "Israel freue(イスラエルは喜ぶ)" のスィング感溢れる8声ホモフォニーと変化を見せます。後半フーガはバッハ除いて誰もこんなに長いテキストをフーガ主題にし得ないでしょう。しかも、勢いがあり印象深くバッハ声楽作品の最高峰です。ブランデンブルグ協奏曲第2番冒頭に似た親しみやすい "Die Kinder Zion(シオンの子らは)" で始まり、"loben(讃美する)" のメリスマ、"Reihen(列を作って)" のコロラツゥーラ等、驚嘆すべき点は沢山あります。
第二楽章
 一転して“アリア”と記された美しい対話の曲となります。管弦楽組曲第3番で序曲と舞曲ガボットに囲まれて心に染み入るG線上の“アリア”が置かれているのを思い起こします。
第三楽章
 大きく変化し壮麗なヴェネツィア風の「呼びかけ」と「応答」の二重合唱となり神を讃えます。
第四楽章
 4拍子の前楽章から切れ目なしに3拍子の4声フーガに突入します。一楽章のフーガとはタイプががらりと異なり、即興的で自由な勢いのあるフーガで、ファンファーレのような上昇形分散三和音による歓喜の“ハレルヤ”で結ばれます。

合唱曲解説:藤井良昭
オルガン曲解説:山口綾規

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